ホームページへ

学生の諸君へ(「自分の頭を使って考えること」)

(もともと情報学科の学生向けに書いたものですが他の学科の学生でも同じこと が問題であると思い「情報学科の2, 3年生へ」という題を変えました)

皆さんが自分の頭を使ってものを考えるということを身につけてほしいと思います. これはなかなか大変で正直な話, しょっちゅうし続けるのは僕自身勘弁してほしいと思う大変なことです. 大抵の場合人は他人の言っていること, 書いていることをもう一度自分でかみくだき納得するということをせず理解したような気持でいることが多いのです. そして, そのように多少いい加減にして進むことは通常の生活においては大切なことで一々自分で確認しないと気がすまないようでは日常生活をスムーズに過ごすことが難しくなります. けれども, 少しまともなこと, 骨のあることを解明したり理解するためには, 自分の頭を使ってものを考えるということ, 自分なりの理解をする必要があるのです. よく, 借り物の考えではだめだ, といいますが, もとは他人から習ったり聞いたりした考え方であってももう一度自分で考え直して, なるほどそうだ, と思うようにならなければその考え方を応用したり肝心なときにその考えにしたがって行動することは出来ません. あるいは自分の頭を使って考えてその考え方を応用できたとき初めて, なるほどそうだ, と思えるようになるといった方が適切かもしれません. ともかく自分の頭を使ってものを考えるということが出来るようになることは大変なことでかつ大切なことです.

みなさんは情報学科においてものごとを数理的に解明することを身につけることを目指しています. これをある程度できるようになるには学ぶ段階であっても自分の頭を使って考えるということをしようとしなければまともな思考能力を発達させることができません. 去年の2月に現在の4年生のためにスポーツにたとえて説明した文があるので以下にその文の一部を書いておきます.

皆さんは早稲田大学理工学部の難しいといわれる入試に通ってきたのです, 付属高校からきた人も高校受験はかなりの難関を通ってきています, 推薦入学の人も優秀な高校でかなりの成績であるから入学できているのです. 皆さんのその頃あるいはもっと小さいときまわりにいた人と比べて下さい. 皆さんの頭はまわりの人の中ではよい方だったと思います. 無論もっと頭のよい人はいたかもしれません. けれどもやはり頭の能力に関して皆さんは多くの人のなかで恵まれている方だと僕は思います. ものを考えたり分析したりする頭の中は見えません, また考える力を高めるための努力も目には見えません, ですからスポーツにたとえて考えてみましょう. 運動部に入るとオリンピックにでるような選手でなくても,競技会に出ることが全くないような人でも毎日のようにトレーニングを積みます. すると初めはとてもできそうもなかったことが出来るようなことを経験することもあります. たとえそんなことがなくてもトレーニングを積むとそれなりに筋肉がついてそのスポーツをする身体ができていき, 身体の動かしかたの記憶が頭のなかにでき, スムーズな動きが出来るようになります. 勉強も同じです, 毎日集中した勉強を続ければそれなりに頭がはたらくようになるのです. まして皆さんは頭の能力について恵まれている方なのです, それなりに頭が動くようになるはずだと思いませんか?トレーニングをやめてブクブク太ってしまった人を思い浮かべて下さい, ものを考えなくなった皆さんの頭の中がどのようにさびしい状態か思い浮かべてください. 人には向き不向きがありそんなにうまくものを考えられない人もいます, それは速く走ることが出来ない人やうまく身体を動かすことができない人がいるのと同じことです. しかし皆さんは考えることが出来る部類にはいっていると思います. (中略)もし自分の頭を使って考えることをしたくないのなら大学をやめるのがよいでしょう. 与えられた能力を発揮できるよう毎日の努力を積んで下さい.

僕自身は数学の授業をしているのでそのことについて書いておきましょう. 数学の問題は解ければ気持ちのいいものですが, すこしまともな問題, 骨のある問題になればそう簡単には解けませんし, また本にかいてあること自体なかなか理解できにくいものもあります. しかし大切なことはそれを理解しようとして色々自分の頭を使うことです. べつにその努力が貴いのではありません. いま自分の頭ですぐに理解はできないことを何とか考えつづけることはそのとき結局答えや結論に到達しなくても, それはとてもよいトレーニングになるのです. これをやりたくない人は, この上に書いてあるように大学をやめるのがよいでしょう. すべての人が100メートルランナーやマラソンランナーになる必要がないのと同じように数理的な力を高める必要はないのです. 皆さんは自分が何をしたいのか何をすべきなのかわかっているはずです.

江田 勝哉


ホームページへ
1996年3月頃作成
(c) 1997 Katsuya Eda