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集合と位相 試験解答例

授業と演習をとおして皆さんの多くがあまり理解できていないことはよくわかっていますし、皆さんの多くが生まれてこのかた「ものがわかる」という体験をしていないということもわかっています。 これは皆さんだけでなく3年生も4年生も同じです。 そして、大抵はそのまま卒業してしまうのです。 何故そうなのか、何故十何年も沢山勉強しているのに(させられているのに)「ものがわかる」という体験に欠けるのか、考えました。 それは、自分の頭で考えるということをしていないからなのです。 皆さんは沢山のことを知っています。 中学、高校では随分難しいことを習っているのです。 ところが皆さんはそれをいとも簡単にやすやすとこなしてきています。 これは「自分の頭で考える」ということをしていないからです。 自分の頭で考えるということをすると小学校の教科書に書いてあることですらとても難しいことが多いのです、自分の頭で考えるとそう簡単に結論に到達しませんし、とても時間がかかります。 つまり、皆さんはあまり深く考えず要領よくこなして過ごすというように勉強し続けているわけです。 このような態度は人間が生きていくうえで大切な態度の一つです。 何でもかんでも自分でとことん考えこんでばかりいては毎日の生活さえ難しいものとなってしまいます。 けれども、大学でものを学ぶというのはこの態度ではない態度、「自分の頭で考える」という態度が必要なのです。 これをする気がないのなら大学で学ぶ必要はないでしょう。 現在、このような「自分の頭で考える」ということができないまま早稲田のそれも理工学部から卒業していってしまう人が沢山います。 けれども皆さんは幸いに江田先生という「自分の頭を使って考えるのがいやなら早く大学をやめろ、御両親に手紙も書いてあげる」と言うとても親切な先生に恵まれました。 自分の頭を使って考える訓練をするか、大学をやめるか、少なくとも1つを選びなさい。

以下、配点および問題の解答を述べます。 配点は50点ずつ200点満点で55点で通過しています、合格点は110ー120点です。 論理的に推論をすすめている答案には加点をしていますから全部よい解答なら250点は越える事になります。 1番の集合の問題は大変やさしくほとんど説明を要しないので解答例は書きません。 しかし、いくつか注意しておきたいのです。 ⊂ を真部分集合を表す記号と解釈している人が何人かいました。 現在では真部分集合の場合 \subsetneq か \subsetneqq とかくのが普通です。 それは実数の大小関係のように真に大であるということの利用価値が少ないからです。 集合 X, Y が等しいというのは X のすべての元が Y に属し、かつ Y のすべての元が Y に属すということですから、X = Y を示してから X ⊆ Y を示すというのはちょっと変だということに気がついて下さい。 また皆さんの中の 1/3 位の人は命題と集合の区別がありません。 ⇔ の両側に集合 A とか B がおいてあるのです。 (よく解釈していますから減点していない場合もありますが、こういう人の作文は読みたくない。) また反例をあげるというのは成立しない必要十分条件を述べることではありません。 その十分条件を満たす例が本当にあることを示すことが反例をあげるということです。 ただし、この程度のことで減点はしていません。 一般に皆さんは何かの存在をしめすということが出来ません。 何かある性質をもつものの存在を示すということをすることです。 (皆さんのお得意は同値変形と等式です、これを頭の公式集の中にどのくらい詰め込めるかという競争を試験前にやることが皆さんのうち多くの人の勉強です。 これはパソコンに他人がくれるプログラムを次から次に使いもせずただ詰め込むのに似ています。 これは馬鹿になる訓練です。) たとえば x2 > 15 である実数 x の存在を示せ、といわれたとき x がルート 15 より大きければよいというのは厳格にいうと論理的に考えると答えになっていません。 それはルート 15 より大きい実数というのが存在していることをいっていないからです。 5 の二乗が 15 より大である、といえばずっとすっきりした答えでしょう。 3番の(2)のヒントの場合でもそうです。 関数 f を f(n) = n で定義する、というようにしなければいけません。 「このようなものがあるはずだ」などと書いている人がいますが、全然ダメです。 1番くらい簡単なものは図をかけばわかるものですが2番3番となるとなかなかそうでもありません。 だいたい図をかいてわかる程度のものなら証明する必要もないのです。 成立するかどうかわからないから証明を考えることにより正確に考えられるようになるのですが、ここではその証明をかく練習をしているのです。 皆さんの多くは証明をお祓いのように思っています。 そのような表面的理解の仕方では世の中の複雑な現象を科学的に分析する際の力がつきません。 この問題に対して絵をかくだけですましても2、3、4の問題である程度の論理的展開ができている人には点数をつけています。 ただこの問題だけしかできなくて絵だけ描いているのは落書として採点しました。

2番で証明を要するのは D(F,G) = 0 ならば F = G であることと三角不等式だけでしょう。 x ∈ F について d(x,G) = 0 である。 すると定義からある y ∈ G について d(x,y) = 0 となる。 x = y であるから、x ∈ G である。 よって F ⊆ G が成立し同様の議論で G ⊆ F が成り立つ。 よって F = G ある。

この途中で、x ∈ F がすべての x なのかある決まった x なのか、それとも任意の x なのかといったことが疑問になる人がいます。 わざと色々なことをいったのですが証明のなかにはそのようなあいまいな表現でしか表せないものは全くありません。 よく「変数 x を動かして」などという説明がありますがそれは論理的に述べることができるという前提のもとにされていることです。

x ∈ F とかけば集合 F のある決まった特定の元です。 そして x ∈ G と結論できました。 ふりかえってみると x が2で割り切れるとか何か特別の性質を使ったことはなくどの x についても成り立つ議論です。 そこですべての x ∈ F について x ∈ G が成立する、と結論しているのです。 さて、三角不等式、これができればこれだけで合格です。 他が全然できなくても合格です。 この位の長い論証を組み立てられその論証に耐えられば、大学院にすすんでも理解することに関しては問題ないでしょう。 だからといってこの問題が皆さんにとってとてつもなく難しい問題というわけではありません。 皆さんの論証をする能力が低いということを言っているのです。

D(F,H) の定義から D(F,H) = d(x0,H) となる x0 ∈ F または D(F,H) = d(z0,F) となる z0 ∈ F が存在する議論はどちらの場合も本質的には変わらないので前者の場合のみあつかう。 d(x0,G) = d(x0,y0) となる y0 ∈ G が存在する、またこの y0 に対して d(y0,H) = d(y0,z0) となる z0 ∈ H が存在する。 このとき

D(F,H) = d(x_0,H) \le d(x_0,z_0) \le d(x_0,y_0) + d(y_0,z_0)
                                 = d(x_0,G) + d(y_0,H)
                                 \le D(F,G) + D(G,H)

この証明は中々難しい証明です。 それは D(F,G) が Max-Min 型で定義されているからです。 そのため、図を書いて自分の図に対する感覚だけで定義を理解しようとしている人はほとんど定義の意味をとり違えています。 (図で感覚をつかみたい人は2点あるいは3点の集合を3つ用意し考えて下さい。) 一般に x ∈ F, y ∈ G のとき d(x,y) ≦ D(F,G) は成立しません。 ですから上記の証明のように順番に x0, y0, z0 をとっていかないと失敗します。 証明の指針を説明します。 皆さんが感じているように(定義の基礎概念がそこにあるのですから当然ですが)、なんとか (X,d) での三角不等式に帰着させたいと思うわけで、ともかく d を使っての表現をします。 D(F,H) = d(x0,H) となる x0 ∈ F をとるところまではよいでしょう。 後は d(x0,y0) ≦ D(F,G) となる y0 をとりたいと思えば y0 をとった後同じことを D(G,H) について考えることにより上記の証明は見つかります。 是非、この証明を理解し、黒板の前で他の人に説明できる程度に自分で納得するまで頭 をはたらかせてください。 どのような条件で x0, y0, z0 を選ぶかが大切なところです。

d(x0,H) ≦ d(y,F) + d(y,H) となる y ∈ G が存在すると書いている人がいました。 例えば G ⊂ F ∩ H ならばどんな y ∈ G についても d(y,F) = d(y,H) = 0 が成立しますから、この議論は間違っています。 その他色々な間違いがありました。 自分の議論が途中でうまくいかないことに気づいている答案もありました。 少なくともそこまでは論理的に整然としています。 このような態度で勉強をすすめれば理解が深まることを請け負えます。 ごまかそうとしている議論は「理解したくない」といっているのと同じです。

3番は授業のとき、集合について「有限個を除いて含む」という概念を扱いましたがこの概念を関数の大小関係について扱ったものです。 色々なところで「大体成立する」とか「概ね成立する」という表現で表されるものがありますが、そのようなことの数理的な定式化の一つです。 3(1) は簡単ですが、f(n) ≦ g(n) や g(n) ≦ h(n) が成立していない集合を確定することが大切です。

{n ∈N|f(n) ≦ g(n) でない}= A, {n ∈N|g(n) ≦ h(n) でない}= B とおく。 すると n \notin A ∪ B ならば f(n) ≦ g(n) ≦ h(n) が成立する。 一方 A, B が有限集合だから A ∪ B は有限集合である。 よって f \preceq h が成立する。

一般に A と B が異なっていることを明確に意識しないと 3(2) は何をきかれているかさえわからなくなります。 また、A, B あるいはそれに類するものを書かず「有限個を除いて」を連呼しているのは「すべての」といっているのと違いがどこあるかわかりません。 簡単なことですがここで大切なのは2つの有限集合の和集合はまた有限であるということです。 3(2) の問題文は2年の後期にある情報数学Aで丁寧にやる予定ですが通常の言語は意味を考えながら読まないと論理的に異なった意味にとれることのある例です。 授業でやっている概念ですからそのときの例をある程度わかっていれば意味の取り違いはないと思います。 (意味をとりちがえると極めてつまらないことになります。)

fm の全体が可算個だから m ∈Nと思ってよい。 f(n) = max{fm(n)|m ≦ n} (n ∈N)で定義する。 m ∈Nについて、すべての n ≧ m について fm(n) ≦ f(n) であるから fm \prec f である。

この証明を覚えてはいけません。 覚えるのはスポーツでフォームの真似をするのに似ています。 フォームは主に重心の位置と筋収縮の順番によって生まれる結果ですから目にみえる結果ばかり追ってもだめなのです。 よく理解して自分の言葉で証明を書けるようにすればよいのです。

4番は授業中にやりました。

背理法で証明するため結論を否定する。 すると x0 ∈ \overline{A} で A に属さないものがある。 x ∈ A について Ox ={y ∈ X|d(x,y) < d(x,x0)/2}とおく。 Ox は開集合で x0 \notin \overline{O_x} である。 A ⊂ \bigcup_{x \in A} Ox で A はコンパクトであるから有限個の O_{x_1}, …, O_{x_n} を A ⊂ O_{x_1} ∪ … ∪ O_{x_n} となるように選べる。 x0 ∈ \overline{A} ⊂ \overline{O_{x_1} \cup \cdots \cup O_{x_n}} = \overline{O_{x_1}} ∪ … ∪ \overline{O_{x_n}} であるが x0 は右辺のどの項にも属さないので矛盾する。 (ε= min{d(x0,xi)/2 | 1 ≦ i ≦ n}とおき B(x0,ε) ∩ A = φ から矛盾を出すのもよい考え方です。) コンパクトという概念は少しとらえに難いのでその意味ではちょっと難しいと思います。

なかなか人生は厳しいのです、楽しんでやって下さい。

4月7日     江田 勝哉


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著作:平成9年4月7日 江田 勝哉
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編集:平成9年4月9日 江田研究室