主な研究と特徴数学において、いろいろな分野に無限が関わる現象がある。無限を直接あつかう分野は集合論であるが、集合論、あるいはその技術を用いて数学の諸分野の問題を解明するのが応用集合論の目的である。応用集合論という分野が確立されているわけではなく、いろいろな分野において、集合論の技術あるいは集合論で開発された技術が応用されているのをこのように呼んでいる。私は20年ほど前から Hawaiian earring (jpg-file). と呼ばれる空間に関係する数学的対象を中心に研究してきている。Hawaiian earring というのは無限個の円が一点でつながっていてその一点に収束している平面の部分空間である。このような局所的に複雑な構造をもっている空間についての代数的位相幾何は未発達で大きな未知の部分である。近年 J. Cannon, G. Conner, A. Zastrow, W. Bogley, A. Sieradski、そして私の共同研究者でもある K. Kawamura ら Hawaiian earring に関して研究成果をもたらす研究者が増えている。Hawaiian earring の基本群、特異ホモロジー群、チェックホモロジー群を研究することは非可算濃度をもつ非可換群、可換群、無限組合せ論を研究することになる。テーマ別に整理すると以下のとおりである。(英語版は別の内容です)Change to English.
(1)スペッカー現象、空間的準同型写像と無限組合せ論
可換群Zωとスペッカー現象との関係はすでに集合論において無理数空間ωωにおける無限組合せ論との関係が解明されている。この無限組合せ論に関連して、純粋に集合論的研究も行なっている。スペッカー現象は非可算濃度の群特有の現象であり、空間的準同型写像という概念によって位相幾何的な側面をもつことがわかってきているものである。非可換的なスペッカー現象の解明の糸口が見つかり非可算の非可換積においては可換とは異なった現象が起きることが Blass, Brendle, Kamo, Shelah の研究によってわかってきている。
(2) 無限語の研究
Hawaiian earring の基本群は非可算非可換群であるが無限の長さをもつ語と自然な対応がある。この対応に基づいて無限語が定義される。この研究は純粋に代数的なものとして定式化されるが、基本的に無限列を扱うため現存する有限生成の群論とともに、全順序集合についての考察を常に含んでいるものである。そのため集合論的感覚をもって群構造を解明する研究である。これは組合せ群論の無限化であり、タジキスタンの数学者 Umed Karimov と共同研究を進めている。
(3) 無限アーベル化の研究
アーベル化とは群の演算を可換化することによって得られるものであり、弧連結空間の基本群のアーベル化は一次の特異ホモロジー群となることが知られている。(2)に述べたような無限語に対しては順序を無視するということにより無限アーベル化と呼ぶべき操作が可能となる。この位相幾何的意味は個々の場合にはその解釈を与えることができる。ひとつは高次のホモトピー群を使うことが考えられる。また特異ホモロジー群の標準的剰余群による方法、空間的準同型写像を介してして純粋代数的に定義する方法が考えられるが現状ではそれらの相違についての研究が十分でない。
(4) 連続語の研究
フラクタルの基本群の研究(2)における無限語の一般化として1次元空間のパス（道）を考え、既約語の代わりに既約道という概念を使うことにより1次元空間の基本群を研究することができる。そのことにより、空間準同型写像の考察を Hawaiian earring と1次元空間の基本群の間に広げることができ、1次元空間の基本群の研究をすることができる。
(5)群から空間をつくる研究
(4)の研究から基本群が空間の位相を決定する場合がわかり、G. Conner の提案で共同研究している主題である。この空間の構成は一般の群について定義されるが意味のあるのは非可算非可換群であり既存の研究と全くことなる展開となっている。
2009年10月14日-16日の集会の報告集の pdf-file
Hawaiian earring 関連論文リスト
Hawaiian earring と無関係なテーマの論文リスト
今後の展望
スペッカー現象については、可換の場合の結果を非可換化することと共に可換の場合を含め長さが有限の弧のなす基本群やホモロジー群の部分群が対象にはいってきており、集合論における基数不変量とのつながりと位相幾何的側面だけでなく距離空間としての研究を進める。また、無限アーベル化の位相幾何的解釈の相違の解明とともに無限アーベル化という概念の確立が今後の課題となる。フラクタルの基本群の研究は、純粋代数的な無限語の考察に帰着することができないため、連続語と無限語の概念とどのような相違があるかを解明することが今後の大きな課題である。
このような当面の課題を含めて、数学の色々な分野において出現する、無限とくに非可算無限の関係する現象に興味をもっていきたいと思っている。
1969年早稲田大学理工学部数学科卒業、1971年東京教育大学理学研究科修士課程修了、1981年理学博士（筑波大学)、1994年早稲田大学理工学部教授
所属学会: 日本数学会
